「小さな水素社会 パネルディスカッション」

福島県と全国の企業、団体、自治体18組織が参加する「小さな水素社会構築ワーキンググループ」が中心となり、REIFふくしま2025でミニステージ企画を行った。小規模分散型の地産地消モデルの小さな水素システム実現を目指す取り組みを、有識者を迎えて90分に渡り来場者に熱く語った。

小さな水素社会構築ワーキンググループは、福島県再生可能エネルギー関連産業推進研究会のワーキンググループとして発足し、福島県浜通り地域を中心に小さな水素システムの具現化に乗り出した。REIFふくしまで開いた講演およびパネルディスカッションで、関係者が小さな水素システム実現に向けた今後の取り組みを示した。

基調講演①「小規模分散型、地産地消モデルの小さな水素システムの可能性」

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産業技術総合研究所・福島再生可能エネルギー研究所 再生可能エネルギー研究センターの難波哲哉センター長は講演で水素社会実現への現状と背景を踏まえ、小さな水素システムの可能性を示した。国の第7次エネルギー基本計画では40年に再生可能エネルギーは40~50%になり、23年改定の国の水素導入基本戦略では40年までに水素キャリアを1200万t輸入、さらに50年までに2200万tの輸入を目指している。そして国はGI(グリーンイノベーション基金)を活用した水素・アンモニアなどのサプライチェーンを国内外で作り上げようとしている。輸入水素は港へ上げ、内陸や島でも活用していくには国内インフラを構築しなくてはならず、輸入水素が供給面からコストアップにつながる要素も大きい。難波氏は「輸入水素のコストは小さな水素社会を実現するドライブフォースになるかも。再エネの主力電源化により地域との共生を通して、再エネと水素をミックスして実用化していく技術を強化し、先行投資への助成も受けて水素コストを引き下げ小さな水素システムが実現していく」と指摘。

メガソーラーでは1日65kgの水素が作れる。一方FCVは100km走行で0.8㎏の水素が使われる。また水素バーナーで工場が水素を利用するなど水素の製造と需要のバランスがある。「この点を加味して、小さな水素社会の実現では、現状の再エネから水素を供給できる仕組み造りが求められる」とした。「水素を作る、使う取り組みを通した利便性を供与する社会造りで、余剰再エネから水電解で水素を作り、水素を使うサービスを実現する小さな水素社会を、福島県から創り出していくべき」と期待を示した。

パネルディスカッション#1「グリーン水素を小さくつくる」

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ミニステージ1つ目のパネルディスカッションは、「水素を小さくつくる」をテーマに、難波氏と共にイノベ機構の小林部長、水素設備メーカーの武藤氏が登壇。

小規模分散型で水素を作る利点を、エノア(豊田市)の武藤友祐再エネ水素システム事業部営業部長は「スマートマイクログリッド」と指摘した。いきなり大きな設備でなく、小中規模の工場などは設置出来るPVの規模が限られるので、設置出来る範囲で水素製造を行い、その集合体を作り上げて行く 事、とした。福島イノベーションコースト構想推進機構の小林正典産業集積部長は「これまでと真逆の発想」と指摘した。スタートアップではいきなり大きい規模では無理。小さい規模で経済合理性を実現し、大きいものへ進んでいく事業を地方から水素製造を小規模でスタートさせる」とした。難波氏は「小規模設備」とした。小さい設備で進めれば早く完成する。維持費も管理も事業者以外ででき、低コスト化できるからだ。

小規模分散型にはどのような構成が必要かー。小林氏は「福島県は再エネの導入率が日本でトップランクだが、発電設備のユーザー需給調整をしていくのに、水素を作るだけでなく、ユーザーに近いところで調整することが重要」とした。難波氏は「水電解装置を小型でも性能を落とさずにどこまで開発できるか。また水素の輸送を、ユーザーが経済性を見て、どう進めるかも大事。小規模の水素製造装置は再エネ電力の入力に応じて上手に水素を製造していくことが重要」と示した。武藤氏は「再エネ水素供給システムで中小工場向けなどへコンテナ型ワンパッケージの製造装置で供給すれば利便性がある。またPV電力の需要予測などで必要な時に必要な電力の供給を、AIも駆使し進めるべき」と指摘。小さな水素社会実現にはPV出力制御での余剰電力の利用は重要になる。

パネルディスカッション#2「グリーン水素を地域でつかう」

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パネルディスカッション2つ目では、「小さな水素を地域でつかう」をテーマに、福島県の渡邉氏、浪江町の藤田氏、郡山の製造事業会社オールナビクオーツ代表の武田氏が登壇。

水素の地産地消を分散型でやる意義、そしていかに地域で利用するか。福島県の渡邉友歩次世代産業課副主査は、「地産地消の意義は近くで使えることで、エネルギーのセキュリティー、安心感がある。適地で小さな水素設備を設けていく小さな水素社会の試みはメリットがある」と指摘。石英ガラスメーカー・オールナビクオーツ(郡山市)の武田邦義社長は「水素はまずコスト。そして純度、安定供給だ。工場で水素、酸素はかなり使うので、グリーン水素を使用していけば、ユーザーからも環境対応から評価される。石英ガラス製造で使う水素は高純度。でもコストは安価になってほしい」とした。浪江町の藤田知宏産業振興課新エネルギー推進係長と渡邉氏は「浪江町にはFH2Rがあり、今は福島県内で水素は使いきれていない。水素需給では水素を使うプレイヤーが必要。町は公共施設などで利活用をしてきた。水素タウン構想を掲げ、水素貯蔵量では国の水素特区に基づいて大型貯蔵を実現でき、水素の大規模利活用を実現できる。グリーン水素利用でのメリットは現状では小さいが、水素を利活用することでCO2削減につながるルール作りをし、企業の投資判断につないでいければ」とした。そして小規模分散地産地消での水素の展開で、渡邉氏、藤田氏は「小さな水素社会は地域で水素を造り、使うシェアエリングが大事。まず使いやすいところより使っていく。浪江町はFC自転車を設置したが、生活の利便性とかっこよさが受けている」と水素を使い、暮らしが変わる環境、にシフトしていく姿を期待した

基調講演②「水素産業の採算性」

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2025年夏より小さな水素社会ワーキンググループに参加している東京海上日動のグリーンビジネス本部からは、木村竣一工学博士が、「再エネ領域に破壊的イノベーションは起こり得るか?」をテーマに講演。木村氏は前職がNHK放送エンジニアという異色の経歴。

東京海上日動グループではグリーントランスフォーメーション推進強化に向けて、再エネ事業リスク評価で東京海上ディーアール社、再エネ建設に関するコンサルティングにおいてはID&E社といったグループ体制で取り組んでいることを紹介。

基礎科学分野においていかにイノベーションを起こすかについて、論文トレンドの変化と共に、経営学的アプローチで説明。イノベーション特性として、「その賞味期限」「模倣されること」「単発イノベーションで留まらないこと」といった重要留意点について説明。また、持続的イノベーションと破壊的イノベーションの関係性について言及し、安定している企業ほど破壊的イノベーション創造の難しさについて説く。

プレゼンテーション「次世代水素キャリアの可能性」

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ミニステージ最後に、小さな水素社会の発起人企業であるOKUMA TECHの李顕一社長が、「次世代水素キャリアの可能性」と題しプレゼンテーションを行った。「福島県から革新的技術を活用した小さな水素社会の事業が生まれている。水素産業全体を支える上で、小さな水素社会事業も有益。この事業を通してさまざまな環境で水素を使っていただき、水素を身近なエネルギーにしていく。当社は現在、固体粉体水素の実用化目指している。固体粉体でカートリッジに入れ、常温常圧でコンテナ輸送、現地で加水、水分除去し水素を取り出す。液化水素などより大幅に安価になる。小さな水素社会実現で重要な、安価な水素供給で、その目玉にしていく」と紹介した。