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リーフふくしまが示す 水素社会実現への取り組み

福島県は2040年頃をめどに県内エネルギー需要の100%を再生可能エネルギーから生み出す「福島新エネ社会構想」を掲げ、日本屈指の再エネ、水素の基地を目指した導入の拡大を進める。県内には日本を代表する再エネ・水素の国際研究機関があり、進出企業、県内企業が再エネトップランナーとして先端技術実装への取り組みと、水素イノベーションの拠点を創出し、水素モビリティの導入拡大と水素地産地消事業の展開を進める。県主催で、10月16~17日に郡山市で開催した東北地方最大の再エネ、水素の総合展示会「リーフふくしま2025」では、220の企業・団体が出展、展示や講演で先端の取り組みをアピールした。最も関心が高かった水素分野で展示、講演した企業・研究機関、自治体が取り組んでいるシステム技術開発と事業の成果は、日本が水素社会を実現する全国のモデル県になる福島県の今後の姿を示している。 

会場レイアウト

デンソー、「水素の地産地消システム」

展示でデンソーはデンソー福島(福島県田村市)がグリーン水素をアフターバーナーの燃料として活用、24年春から排ガスを水素アフターバーナーで焼却、製造工程でのカーボンニュートラル実現をアピールした。水素地産地消事業の福島モデルとして、この技術をデンソーは国内外に横展開していく。工場の傍にグリーン電気で水素を生成するPEM型水電解システムを20フィートコンテナに入る大きさで設置した。

工場敷地の1000kwPVからの電力と、系統から非化石証書付きグリーン電力で水素を製造する。水電解セルはトヨタ自動車が燃料電池車向けFCセルを初めて実用化、400kwの電気から時間8kgのグリーン水素を製造、パイプラインで工場へ供給する。ラジエーターなどの生産工程で、製品を加熱するガス炉をLPGからグリーン電気の電気ヒーターに転換、脱脂、ろう付け炉で発生する排ガスを2基のアフターバーナーでLPGを燃料に燃焼・無害化してきた工程を水素燃焼バーナーに転換した。水素は空気と混焼、燃焼温度を下げNOX発生を抑える。

水素は月1.5t程度生産、2基のアフターバーナーを水素専焼に全て活用でき、水素は2日分の生産量を貯められる。水素安全対策、メンテ技術を蓄積し、今後国内の工場や、熱を使う施設などへ水素製造から活用までをパッケージ化した、最適な水素量での事業として横展開する。
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浪江町水素タウン構想

自治体では浪江町は全国に先駆け水素タウン構想を掲げ、生活面での水素利活用を含む水素の地産地消事業をさまざまな規模で進める。同町には世界的規模の水素実証拠点「福島水素エネルギー研究フィールド (FH2R)」が20年から運転する。生成した水素をトレーラーで運び、貯蔵、50kw燃料電池で電気と熱を付近の温浴施設へ柱状パイプラインで供給する最初の水素地産地消事業が稼働する。民生・産業への水素供給では水素をシリンダーで民家へ配置、家庭用FCで発電する自己託送での電気供給をした。国の研究機関「福島国際研究教育機構(F-REI)」が大規模な研究拠点を建設に着手した同町で駅前再開発事業が今年度から27年度完成で開始、商業施設、交流施設、地域活性化施設、公営住宅が立ち並び、屋根には200kwの太陽光発電が設置される。熱電供給で付近にエネルギーセンターを設置、水素貯蔵と100kw未満のFCを配置する。福島県は国から水素特区に選ばれ、同町が第1弾で7000㎥の水素タンクを設置する。

町はFH2R隣接地へRE100産業団地を造成、再エネ電気、水素の供給も具体化する。FH2Rから水素をパイプラインで供給する企業化調査も福島県からの委託で開始。FH2R(年900tの水素生産可能)は27年度でNEDO事業終了後は地元の利活用が焦点だ。町は今年度内に企業と共同で新電力会社を設立、水素を含む電源開発を推し進める。水素・再エネ事業へチャレンジする企業をバックアップするため26年央にはエネルギーセンター敷地へインキュベーションセンターを新設、開発企業を誘致する。米カリフォルニア州ランカスター、ハワイ州とは水素でパシフィックハイドロジェンアライアンスを結び、りーフふくしまでは米国の関係者が訪れセミナーを開いた。
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住友ゴム工業、「タイヤ製造で水素の蒸気利活用」

自動車タイヤ製造で大量に使用する熱エネルギーを、グリーン水素を製造し工場へ蒸気で供給する水素サプライチェーンの構築を住友ゴム工業白河工場(白河市)は25年春から進める。白河工場はタイヤゴム消費量で月1万350tを生産する。タイヤ製造で天然ゴムを混合成形し、熱でタイヤに仕上げる加硫工程に必要な大量の蒸気を、これまでの化石燃料を、一部水素転換した。やまなしモデルのP2Gシステムを導入、PEM型水電解で500kwのグリーン水素製造装置を設置した。

工場に設置する太陽光発電(2000kw)からと、系統からのグリーン電力を活用する。水素は120㎥時生産、パイプラインでボイラーまで供給する。水素の貯蔵はトレーラーが代替し、需要に対応する。水素の生成から供給、ボイラー燃焼、蒸気利用を工場で対応するサプライチェーンの構築により水素の地産地消を実現する。独自の水素ループを利用した熱多消費型工場での脱炭素化へ全国先駆けの取り組みとして水素利活用を拡充していく。
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山梨県、「福島県と一体でP2G事業」

福島県での水素地産地消事業にも関わる山梨県はCO2フリー水素サプライチェーン構築で、再生可能エネルギーからの電気で水素を製造するPower to Gas(P2G)システムを事業化する。この「山梨モデル」の全国展開で、県と東京電力ホールディングス、東レが共同で設立したP2G事業開発会社「やまなしハイドロジェンカンパニー(YHC=甲府市)」を通じ、国内最大のP2Gプラントがサントリー白州工場(北杜市)で10月11日運転開始した。国のGI(グリーンイノベーション)基金事業の第1号案件。国内最大の1万6000キロワットPEM型水電解装置を工場隣接地に建設、水素はパイプラインで工場へ供給し工場内の水素ボイラーで熱を発生、ミネラルウォーターの殺菌処理などに利用、ウイスキーの蒸溜にも利用する。

白州工場は天然ガス燃料を段階的にグリーン水素に置き換え、カーボンゼロ実現を目指す。山梨モデルは福島県田村市でもヒメジ理化(姫路市)が建設した半導体用石英ガラス工場に大型P2Gシステムを26年前半にも運転に入る。田村工場のメガソーラーと系統からのグリーン電力で、PEM型水電解装置で水素を生成、バーナーの燃料で利用する。日本トップ級の1万4800kWのP2Gプラントとなる。水素はヒメジ理化の他の工場へも供給する。山梨モデルの水素は東京都も利活用する。大田区京浜島の都有地に1基500kWのP2Gシステムを設置し都内で水素を製造・利用する事業を東京都との連携事業で進め1号機は稼働する。
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トヨタ自動車の進める水素モビリティ

福島県はトヨタ自動車の燃料電池(FC)乗用車「MIRAI」を5月末現在466台導入し、人口10万人当たり導入比率は全国1位。燃料電池バスはいわき市で20年から東北初で運行し、福島市で2台目が営業運転する。トヨタが開発したFC移動販売車は浪江町と双葉町で22年から世界初の運行を、FCキッチンカーは郡山観光交通が所有し県内外でフル活用する。FCスクールバスも国内初を浪江町で、FCハイエースも国内初で運用する。いすゞ自動車とトヨタが共同開発したFC小型トラックを、郡山市といわき市を中心に60台を目標に、現在23台を導入する。FC大型トラックをトヨタと日野自動車が共同開発、リーフふくしまへ現物出展した。「福島県内から4~5件の引き合いが来ている」(関係者)。FCモビリティで福島県は全国6都府県で重点地域の県に選定されており、この中で福島県は民間レベルでの導入が5都府県より目立っている。

FCモビリティへ水素供給する水素ステーションは県内に定置式が5基整備。東北地方2番目でいわき鹿島水素ステーション(いわき市)を根本通商(いわき市)が19年整備、乗用車や小型トラックも顧客に、営業は順調だ。郡山市、福島市でも地元企業等が開設、日本エア・リキードは本宮市の東北自動車インターチェンジ付近へバス・トラックなどの大型商用車へも対応できる日本初の無休・24時間操業の水素ステーションを開設した。水素ステーションを福島県は30年までに20カ所を目指す。

現在、全国(150カ所程度)の県単位で最大は愛知県の36カ所、福島県は地方県でトップ。福島県水素ステーション連絡協議会には現在50者程度が加盟、水素ステーションが水素利活用で地域の拠点を目指した収益の上がる事業への取り組みを進める。伊達重機(浪江町)が同町に開所した浪江水素ステーション(水素供給量350㎥時)はFCVへの水素供給に加え、隣接地へ木造の小型ホテル(建屋面積100㎡程度で1室)を建設、水素をパイプラインで供給する事業を26年2月にも開始する。水素は燃料電池(数kw)でホテルの電気・熱を全て賄う日本初の水素地産地消ホテルだ。全国の水素ステーションの課題は収益性。水素ステーションはFCモビリティへの水素供給事業で国から運営コスト補助があるものの、「全国のステーションの現状はほぼ全て赤字。水素の販売量が多くなるほど設備修繕コストがかかり、赤字幅が大きくなる」と関係者は示す。今後は水素の地産地消事業も含めたステーション運営を進め、「水素需要の増加、水素仕入れコストの削減、ステーションの維持コスト削減策を同時に進めることが、新規ステーションの実現にもつながる」と指摘する。

水素モビリティを世界トップでグローバル導入するトヨタは、第3世代FC乗用車、FCトラック向けなどへ、第3世代FCスタックを開発、展示した。出力を第2世代より20%高め、燃費を20%アップ、走行距離も20%アップ、耐久性は2倍で、コストを大きく削減した先進FC技術となる。FCモビリティの広がりは水素市場の広がりでもある。安価な水素を再生可能エネなどから活用し、水素と、アンモニアやeメタンなどにすることも含め、「地域で水素を利活用していく地産地消を、FCモビリティの普及と一体となって様々な形で実現していくことが、全国でも特徴的な地域として福島県には大きな期待がある」(トヨタ自動車)と水素事業の広がりを示した。
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エナジア、「FCモビリティの活用」

そしてエナジア(郡山市)はFCモビリティを活用した水素、未利用熱でのV2X(電動車と建屋間の電気充放電)事業と、ZEB(ゼロエネルギーハウス)事業を展開する。水素の利活用をFCモビリティの移動体で実現、マルチ利用に取り組む。FCモビリティは乗用車、小型トラック、商用車とさまざま。水素を移動体電力で活用するV2Xを設置した大規模物流基地が10月25日、郡山市の高速道路インターチェンジ傍に1期工事が完成。1棟のビルへPVを550kwと蓄電池を407kw時で設置、V2Xシステムを50kwで導入した。PV電気を活用し、3日間は系統からの電気を供給しなくとも自営できる。V2Xは福島県内外に19カ所、計34台を導入した。

電力密度の高いFCVがV2Xの活用をバックアップする。V2Xで充放電が30kw、50kwクラスはこれまで6台が入り、3相電源のV2X実績は同社が日本一。マルチパーパスFCEVの給電技術で水素を利活用するモデルをトヨタ自動車,郡山観光交通と共同で、浪江町で実証、FCキッチンカー、FC商用車、FCスクールバスでの日常の事業化と、緊急・災害時での対応などを実証している。

ZEBも9件で実現する。高断熱性のビル、熱利用、再生可能エネルギー導入の順で進め、V2Xを導入しZEB108%を達成した宮城県での企業の新社屋もある。同社はFCVの水素利活用を通し、ゼロカーボンを実現するレジリエンスのある災害に強い街づくりにつなげていく。
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福島大学、「水素エネルギー総合研究所開設」

福島大学は水素エネルギー総合研究所を開設した。全国で3大学目となる。研究開発の第1弾は木質資源活用の高効率、循環型ネガティブエミッション、地産地消システム事業。福島国際研究教育機構からの委託研究で29年度までの事業。木質バイオマスを炭化し、生成する水素やCOの可燃ガスを燃料に取り出し、ガスエンジンで熱電併給するエネルギー利用システムの開発と、同時に製造されるバイオ炭は農地で還元し炭素貯留するネガティブエミッション技術の構築となる。実験プラントは今年中にも完成、バイオ炭の水素転換(水素が60~70%)を実証、26年後半にガスエンジンを導入する。

そして内閣府の地方創成事業のうちエネルギー関係で唯一、バイオマス由来水素、炭化物の同時製造システムの構築プロジェクトを今年度から5ヵ年事業で開始した。小規模地産地消のバイオマス由来水素・炭化物を製造するシステムを確立、水素供給を可能にする地産地消ビジネスモデルになる。福島再生可能エネルギー研究所、山梨大学、大和三光製作所(矢吹町)、住友ゴム工業白河工場も参加。実験プラントを水素エネ研が26年末に完成する新棟と既設棟を合わせた1000㎡の研究棟で実証する。

稲わら、剪定枝など活用の水素・炭化物の製造設備を開発、水素ボイラーの蒸気はタイヤ製造工程に、炭化物は機能性材料としてタイヤ補強材で利用する。実験プラントを踏まえ、さらに大学付近の旧小学校を改造した産業交流連携拠点を設立し、1日1~2tの原料バイオマスから水素を年間トンオーダーで生産するパイロットプラントを設置する。実用化は原料年60tで100kw級水素ボイラーを実現、水素と炭化物を製造するプラントを工場付近等に設置する地産地消事業として福島県全体に展開を目指す。同プロジェクトへ参加企業を増やすため、エネルギーエージェンシー福島(郡山市)はリーフふくしまで、水素エネ研と企業とのビジネス交流会を開催、バイオマス水素生成、水素利活用、バイオマス原料供給、副生物の利用などでのコラボレーションをプレゼンテーションした。
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福島トヨペット、「バイオ水素熱利用事業」

バイオマス水素事業では福島トヨペット(郡山市)が幹事会社で木質材のガス化装置で発生する水素を高精度で分離し、熱利用で活用するバイオ水素・ガス燃料事業化ワーキンググループを結成、三洋貿易、日本サーモエナーや、タオエンジニアリング(いわき市)などが参加、そして高純度で水素を精製する水素精製技術を開発するハイドロネクスト(大分市)が加わり、水素専焼ボイラー燃焼技術を確立させる。この事業の中核となる水素精製技術は、バナジウムの金属膜で水素混合ガスを拡散、水素純度シックス9と、高純度で水素を精製する。安価なバナジウムの膜で水素原子を通す、原子のふるい工程によりほぼ100%と極めて純度の高い水素を取り出せる。この高純度水素精製装置も展示した。バナジウム膜の欠点は水素脆化を起こしやすい。このためハイドロネクストは今後バナジウム合金膜も開発していく。

福島トヨペットはドイツ・ブルクハルト社の木質ペレットガス化装置(50kw未満)を導入し熱電併給システムを構築、電気と熱を本社建屋へ供給してきている。このガス化装置で蒸し焼きにし、生成するガスには燃料としてメタンと水素が20%程度、COが25%程度で含まれる。そのグリーン水素を分離して熱利用するカーボンニュートラル実現への取り組みとなる。同社が事業化する作業服のクリーニングで洗濯機と乾燥機に熱が必要で、これまではLPG燃料ボイラーを活用している。ボイラーの熱エネルギーに水素を混焼する。ガス化装置のガスから水素を膜分離精製装置で高純度分離し、まずLPGへ10%混焼するボイラーを実現する。ガス化装置は安価な木質チップを燃料にする。最終的には水素専焼ボイラーを実現させる。一連の設備は26年に完成、28年までの実証を通し水素専焼ボイラー技術を確立、ガス化装置から水素を分離するため、残ったガスでのガスエンジン燃焼技術も確立する。

水素高純度精製技術は、山王(横浜市)も東北工場(郡山市)でパラジウム膜を用いた電気メッキ法での水素透過膜を開発する。メッキは一般には金属メッキだが、今回はパラジウムと銅の合金薄膜で水素を析出する。パラジウムは貴金属のためバナジウムと比べると圧倒的に高価格。このため合金にして薄くし、膜の面積を広げ、水素を多く析出していく。この膜を用いた高純度水素析出システムを装置メーカーと共同開発に入っている。高純度水素精製装置は水素地産地消事業では重要な技術となるだけに、今後はパラジウム、バナジウム膜の利点と欠点を補った水素精製技術の可能性も期待される。
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三浦工業、「水素ボイラー」

三浦工業は 「熱、水、環境のベストパートナー」として、ボイラーを中心とした生産現場の多様な設備機器の効率を高める工場のトータルソリューションを展開する。今回初出展し、水素燃料ボイラーを中心に、脱炭素に貢献可能な 製品をPRした。水素燃料ボイラーは2017年より商用化し、当初は工場で 発生する副生水素を活用することでCO2排出量削減と既存燃料代のランニングコストの削減に貢献してきた。20年に国が30年までにCO2排出量46%削減することを表明したことを受け、脱炭素を重視する企業からの問い合わせが増加、導入が徐々に進みこれまで工場などへ数十台を納入している。

住友ゴム工業白河工場へも導入した。サントリー天然水南アルプス白州工場では、日本最大のP2Gシステムの構築で、蒸発量2000kg時(水素使用量約400N㎥時)の同社の水素燃料ボイラー3機を導入した。この水素ボイラーは業 界最高のボイラー効率105%、燃焼排ガス中の窒素酸化物40ppm以下を実現する。安全面では、水素は燃焼速度が速く、燃料配管中を火炎が戻る逆 火現象が懸念されることから、逆火現象を防止する装置を燃料配管内中に設置して取り付け、火炎が戻らない構造としている。また運転停止後の配管中の残留水素をパージする窒素パージ機能を搭載している。安全性、環境性(CO2排出量ゼロ)に優れ、環境規制の厳しいエリアでも設置が可能だ。燃焼時にCO2を排出しない水素燃料ボイラーを産業分野へ供給し、産業熱の脱炭素化を推進していく。さらに今後水素での電気供給、eメタンやアンモ ニアなど新たなエネルギー活用に向けた製品の研究開発にも取り組み、カーボンニュートラルの実現に貢献していく。

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巴工業、「水素の地産地消」

巴工業(東京都品川区)は水素の地産地消向けにメタン熱分解をプラズマ熱分解で水素を安価に製造するシステムを、コア装置を輸入しトータルシステム・HyPlasmaを開発、実用化する。ターコイズ水素(メタンからの水素)を製造するこのシステムは、気体にエネルギーを加え発生する物質をプラズマ状態にして、原子から電子が分離、高い化学反応、導電性を実現する。

このプラズマ熱分解で天然ガスの分子を電気で破壊、水素と、炭素を固定したカーボンブラックを生成する。分解反応が早く、発生する熱エネルギーを高精度で制御できる。従来の水電解水素製造より消費電力を80%削減、水素製造コスト50%削減を実現できる。出力100kw機でターコイズ水素を時間7㎏で製造する。事業化ではメガワット級も開発する。天然ガスをパイプラインで供給し水素の地産地消に綱げていく。同社は高効率の水素貯蔵タンクや、水素をppmレベルで高速測定するインライン濃度センサーも事業化する。

ロボデックス、「新型FC」

燃料電池(FC)ではロボデックス(横浜市旭区)が南相馬市の開発拠点で水素FCドローンを開発する。現在、英インテリジェントエナジーの水素FC(2.4kw)を日本の代理店として導入、このFC搭載のドローンを実用化する。ドローン本体はインテリジェントエナジー製、タンクは帝人が製作。飛行時間は80分。そして新型FCドローンを自社開発で計画。大きさは現行モデルの半分程度で、4枚羽根。FCは1400Wを予定。飛行時間は2時間を目指す。26年夏から秋にかけプロト機を製作、27年春にも新型水素FCドローンを完成させる。

ドローン搭載FCからの電気は、外気温度などでモータの回転が変わり、安定運転の難しさがある。どんな空の条件下でも運用できる水素FCで実用化を目指す。ドローンへ水素を供給する移動式小型充てん装置も展示した。水素の小型ボンベで2時間飛行するのに、充てん装置では小型ボンベで30本を充填できる。トラック搭載の移動式装置のため飛行場など、その場でドローン用小型ボンベに水素を充填、連続飛行を可能にする。
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小さな水素社会を考案、牽引するOKUMA TECH

OKUMA TECH(大熊町)は水素燃料電池ドローンを開発する。ペイロード重量は40㎏と最大級。そのためのFCセルスタックを非白金系で開発し、大幅な低コストを実現させる。そして次世代水素キャリアとなる固体粉体水素の開発を進める。水素化マグネシウムなどで水素を固体粉体にして貯蔵、加水して、水分を除去し水素を取り出す。常温常圧で貯蔵でき、水素の低コスト化につながる。

小型軽量水素FCも開発、事業化した。独自のセルスタックで安価で高品質な可搬型発電装置。定格出力1kw機はセル24枚。水素を純度99.99%以上で供給、5~55度の範囲で利用できる。大きさは幅74センチ、高さ1.1メートル。3kw機は1kw機と水素純度、加湿方式、大きさは変わらない。小型軽量で整備しやすい工事現場などでの利用や災害緊急対応、非常用などさまざまな環境に適応できる。

こうした先端技術を活用し、同社は水素の地産地消による小さな水素社会の構築を進める。共同起案者としてユアサ商事が全国の水素関連メーカーを集めると同時に、福島県浜通り地域からも常磐共同ガスをはじめとした複数企業が賛同。また、地元の大熊町や浪江町に加え、長崎県のエネルギー課や東北大学も参画。エネルギーエージェンシーふくしまのワーキンググループとして産学官連携により、福島県浜通り発の新しい水素社会モデル構築を目指す。
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「水素キャリアの時代に向け」

大規模水素の利活用時代はアンモニア、MCH、液化水素といった水素キャリアが輸入を中心にグローバルで展開する時代になる。液化天然ガス(LNG)はグローバルでの天然ガス供給ネットワークを大転換したが、液化水素を船舶輸送する水素キャリアの大規模供給事業を川崎重工業は液化水素でのグローバルネットワーク構築を目指して、豪州からの液化水素サプライチェーン構築をパイロットスケールで実証した。液化水素運搬船「すいそふろんてぃあ」の海上輸送実証が日本―豪州間で行われ、褐炭から水素を生成、液化して日本へ海上航行した。

そして世界初の商用水素チェーン実証で、市場の動向に合わせまず4万㎥のタンクの船を坂出工場(香川県)で建造する。液化水素船の航行実証は川崎地区に国内からの受け入れ基地、水素製造、液化基地の建設に入った。液化水素タンクは5万㎥規模となり、8月から同社播磨工場(香川県)で製作に入った。

「液化水素のグローバル供給で中長期的計画をぶれることなくきっちりと進めていく」(西村元彦専務・エネルギーソリューション&カンパニープレジデント)方針。水素利活用では水素専焼ガスタービンコージェネレーションで1700kw機をアピールした。ドライ低NOx燃焼のガスタービンも世界初で開発した。川重冷熱は水素専焼ボイラーも開発する。小型貫流ボイラーで時間750~2000㎏の蒸発量で、効率98%の高効率ボイラーだ。大型建機向けなどへ水素燃料電池システムの開発も紹介。

トラックなどが活用する大型水素ステーション向けなどへ、油圧ブースター式水素圧縮機をNEDO事業で開発する。水素流量が300、600N㎥時となる1、2段圧縮機で、水素の流量で2100㎥時を可能にする。従来の圧縮機はレシプロタイプで、摺動部が多く、修繕が必要になり、結果、水素ステーションの運営コストを押し上げている。油圧ブースタータイプは油圧でシリンダーを動かすので耐久性が高く、修理が非常に少なく、ステーションの運営コスト削減に寄与する。今後、実機での実証を27年に実施、事業化へもっていく。
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日揮、「グリーンアンモニア実用化へ」

グリーンアンモニアでは日揮が旭化成と共同で太陽光発電や風力発電といったCO2排出量ゼロの不安定電源から製造した水素を原料に、安定的にアンモニアを合成する運転計画システムの技術を開発、実証プラントを浪江町のFH2R隣接地に建設しており、今年度中に運転開始する。セミナーで発表した。グリーンアンモニアでアジア最初の準商業実証プラントが始動する。旭化成がFH2Rに設置する1万kw級アルカリ水電解水素製造装置で生成した水素をパイプラインで供給、実証プラントでアンモニアを日量4t合成する。

26年度まで実証、最適製造計画システム技術を確立する。負荷の上下運転を通し、水素タンクの貯蔵量が底つかないよう運転をマネージ、設備全体の運転を最適化していく。この運転最適化を実現する統合制御システムを2社が共同開発。水素製造と消費を、年間を通しバランスさせアンモニアプラントを負荷変動させて継続的に運転する。実用化へ向け旭化成は川崎製造所(川崎市)へ4基ユニットのアルカリ水電解装置を設置、変動に強い運転技術の実証をし、30年までには大規模ケミカルプラントの実用化を検討する。日揮は海外グリーンケミカル事業化で統合制御システムと一体化したEPC(設計・調達、建設)で関わっていく方針。

アンモニアによる水素技術を推進するIHI

IHIは燃料アンモニアのサプライチェーン構築と、メタネーション事業を展開する。メタネーション開発で同社のそうまIHIグリーンネエルギーセンター(SIGC、相馬市)に設置したメタネーション装置を紹介した。同社は相馬市でスマートコミュニティ事業をSIGCでPVからの余った電気で水素を製造、自動車やFCに活用、そうまラボ(研究施設)でメタネーションしてeメタンを製造、利活用している。オレフィン、アンモニア合成も実証する。水素水電解装置で発生する副生酸素は水耕栽培や陸上養殖で実証する。循環型サステナブルな農法で野菜を収穫し、学校の給食に活用するなど、エネルギーの地産地消で地域活性化に貢献してきている。

メタネーション事業ではSIGCの1250kwの太陽光発電の電気で水素を得てeメタンの実証機が稼働する。CO2と水素を1対4で合成するメタネーション反応で高性能触媒を開発、熱回収が容易に出来る反応器の標準化を実現した。そうまラボで時間12.5㎥(日量26.7kg)のeメタン合成実証機と同規模の標準機を完成。eメタンを合成し相馬市のコミュニティバスへ供給する。グリーンメタンのエネルギー地産地消で全国初の実証となる。現在eメタン装置は全国に3基を収め、500N㎥時規模の導入も計画する。

eメタンをCO2回収、水素製造、有価転化技術を融合させ、経済的に優れたカーボンリサイクル技術を構築する実証を26年前半からSIGCで実施する。相馬市周辺から高濃度のCO2を回収、4トントラック内でCO2を液化して移動、SIGCでeメタン合成装置を設置する。このCO2回収、トラック内で液化して輸送、SIGCでeメタン製造する移動式eメタン製造装置の一連の工程を福島県矢吹町などの10企業が水素関連産業に参入を目指して立ち上げた、「チームやぶき」(未来制御、大和三光製作所が幹事会社)が水素関連の最初の事業として請け負った。26年2月までに完成させる。福島県内に拠点を置く企業同士が共同で開発する福島発の新エネルギー開発事業となる。

アンモニアは体積密度が水素キャリアの中で最大で、輸送、インフラ整備がしやすく水素キャリアで最初の普及が見込まれる。IHIはガスタービンアンモニア専焼火力発電を相生事業所で2000kwのアンモニア専焼ガスタービンの長期試験に入っており、2000時間運転を達成した。横浜市の研究所でも引き続き、2000kwガスタービンによるアンモニア専焼の研究を継続している。新開発した燃焼器で液体アンモニアの直接燃焼も実現、温室効果ガス削減率99%以上を達成した。商用化第1号はマレーシアのGentari Hydrogen社向けになる見込み。米GEの大型ガスタービンでアンモニア燃焼する開発も相生に試験設備を完成、実証に入る見込み。単体出力30万kw級がメイン。2段燃焼器となり、30年にも実用化を目指す。相馬エリアでは石油資源開発、同社など5社連合が24年度の国の水素等供給基盤整備事業にアンモニア供給拠点構築に向けた調査が採択された。
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福島再生可能エネルギー研究所、「革新水素技術の開発」

米国、欧州の代表的再生可能エネルギー研究所と並ぶ国際研究開発拠点として、産業技術総合研究所、福島再生可能エネルギー研究所(FREA、郡山市)は水素地産地消システム、水素キャリア技術開発、太陽光、風力、地熱、エネルギーネットワークなど次世代エネルギー研究、実装開発に取り組む。水素エネルギー開発では清水建設と共同開発した付帯型水素エネルギー利用システム「Hydro Q-BiC」(ハイドロキュービック)の実証を郡山市の卸売市場で実施した。PV電気を水電解し水素を製造、2者が共同開発した高性能・低コストな水素吸蔵合金に貯め3.5kwの燃料電池4台で発電し、電気を卸売市場へ供給した。日本で早い時期の水素地産地消事業となった。

清水建設はHydro Q-BiC事業を26年1月までに7件で実施する。またFREAは燃料アンモニアの水素活用で50kwガスタービンを研究所へ導入、メーカーと共同開発で100%アンモニア燃焼をガスタービンに利用し発電できることを世界初で実証した。ガスタービンで液体アンモニアの直接燃焼でも世界初の発電に成功した。水素水電解技術の高性能、低コスト化に向けた水電解評価拠点を25年に設置した。再エネの不安定電源下や高圧状況での水電解装置の性能を評価、系統電気への影響評価、加速劣化試験などができる。日本企業が水素の地産地消等に採用する、効率的な水電解装置の開発・グローバル展開で、この評価装置は重要な役割を果たすことになる。

古谷博秀所長は「福島県が先端的に取り組む水素地産地消ではさまざまな技術のアイテムがそろうだろう。再エネの特徴を使い分けし、水素地産地消ではまずBCP対応を建物や通信系等の重要設備で実現、カーボンニュートラル化が難しい工場での高温熱利用などで実用化が進んでいくだろう。水素キャリアではアンモニアは運びやすく、最初の導入ステージに使われるだろう」と今後の水素利活用の拡充策を指摘した。
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福島県のチャレンジ内堀知事、「水素普及をトップランナーとして推進」

内堀雅雄福島県知事は「福島県は40年で100%再エネ活用の県の実現に向け、水素事業を再エネと一体となって展開し、水素の普及をトップランナーとなって進めていく。再エネ・水素の活用で持続可能な、災害に強い町を、水素モビリティの一層の普及と、水素の電気・熱利用事業を各地で進めていく。水素社会の実装に進んでいるのが今の福島県であり、水素の店舗、産業での利用を加速していく。水素を身近なエネルギーへ変えていくチャレンジを通して未来を変えていく」と水素の輪を共に広げていくチャレンジを指摘した。

REIFふくしまでは、水素社会実現に向けたトークセッションを開催した。住友ゴム工業白河工場の水素熱利用や、ネッツトヨタ郡山(郡山市)がトヨタ系ディーラーで全国初の定置式水素発電機とペロブスカイト太陽電池導入を紹介、福島県水素ステーション連絡協議会の根本克頼会長(根本通商社長)は「現在は水素の黎明期であり、皆と情報を共有し、水素ステーション事業へのプレイヤーを増やしていく」と指摘、水素ステーションの経営メリット追求で、全国的な課題である設備維持コストの削減策などをトヨタ自動車の協力を得て進めていくことを示した。

トヨタの濱村芳彦水素ファクトリーチーフプロジェクトリーダーは「福島県にはさまざまなFCビークルが先駆けて導入してきており、県が自治体と一体で水素へ取り組む姿勢が、水素への思いとして伝わってくる。福島でFCビークルを使い、技術を進化させていき、福島県が水素で日本、世界の手本となることを期待している」と語った。
福島県のチャレンジ内堀知事、「水素普及をトップランナーとして推進」